堤中納言物語 - オンライン読書
堤中納言物語 - 11.
冬ごもる空の氣色に、しぐるゝたびにかき曇る袖の晴間は、秋より殊に乾く間なきに、羣雲霽れゆく月の殊に光さやけきは、木の葉がくれだになければにや、猶えしのばれぬなるべし、あくがれ出で給ひて、「あるまじき事。」と思ひかへせば、「外ざまに。」と思ひたゝせたまひ、猶えひき過ぎぬなるべし。いと忍びやかに入りて、數多の人のけはひするかたに、うちとけ居たらむ氣色もゆかしく、「さりとも、みづからの有樣ばかりこそあらめ、何ばかりのもてなしにもあらじを、大かたのけはひにつけても。」